ウイスキーが最初から美味いやつなどいないのだ。 
しかしある時、美味く感じる瞬間が来る。 
こういうのをアクワイアードテイストという。 
後天的味覚という意味だ。 


子供の時は、甘いものが好き。塩っぽいのも好き。 
次第に、苦み 辛味 酸味 臭みを経験していく。 
そして、いつしか角を曲がると、ベタな恋愛漫画のように、 
鉢合わせるのがコーヒーという飲み物だ。 


そんなコーヒーも最初は、
砂糖とミルクを入れないととても飲めなかったのに、
徐々にその量は減っていき、 
今ではコーヒーをブラックで飲んでも
美味いと感じるようになった。 
後天的に、味覚が開発されたということだ。 


私は毎日コーヒーを淹れる。 
休日は豆から挽く。 
今ではブラックしか飲まない。
私にとって、砂糖とミルクは ずいぶん昔に
無駄なものになった。 


テーブルウォーターにコーラを出している生活では
いつまでたっても砂糖とミルクは必要だ。 


思い返してみれば、
サントリーカクテルバーのような 甘いお酒よりも、
ブラックコーヒーは遠かったかもしれない。 


ある日、車を降りると、どこからか炭の焼ける匂いが届く。 
あっ!焼いた肉の香りもする。 
いいなあ。バーベキューだろうか。 
脂が滴る牛肉を思い浮かべる。 
私が最後にしたバーベキューも夏だった。
ビールも思い浮かぶ。


香りと共に、ふと時間が戻ってくるときがある。 
梅雨時の雨の匂いもそう。 
いつかの風景を思い出す。 


ドアを閉め、部屋に戻った私は、いつもの日常の途中だった。 
けれど、冷蔵庫から出して、缶のまま飲んだビールは
いつもより冷たく、とても美味しかったのだ。
いつの間にかあの日の思い出も乗っかったから。 
だから経験を積むとどんどん美味くなる。 
これも私が思うアクワイアードテイストだ。 



チーズ、納豆、鮎のワタの苦さとか、
ワサビ、タバコもかな。 こいつらもみんなそうだ。
いつか通ってきた道で、一瞬ひるんだ曲がり角だ。 



初めて飲んだビールは紛れもないビールの味。 
富大の学園祭で飲んだのは苦い味。 
大人への道を試されているような、苦みと冷たさと重さ。 
一足先に大学生になった友人たちに背を向けて、 
劣等感と寂しさを感じながら電車で家路についた。


あの頃飲んだのは、ただのビールだったのに、 
今ではビールというくくりは厳密には違うものになった。
すでにドライと一番搾りでは私の中では 別の飲み物になっている。 
グリーンラベルも。 
よなよなも。 
誰かを思い出して飲む、グランドキリンもいい。 
嫌なことがあった日に飲む 水曜日のネコもいい。

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でも、今あの頃の味のビールは 飲むことができない。 
飲まなくてもいい。 


ウイスキーの香りをかいでみる。 
飲みなれない大人は ”うわっ!ウイスキーの匂い” と言う。 
子供たちは、”お酒くさい!” と言う。 


そんなとき私は、 

”そんな匂いがしたっけ?? 
果物の匂いがしたはずだけど。” 

と言ってみる。 
子供たちの顔が変わる。 


もう一度匂いを嗅いでみるのだ。 
すると、”イチゴ!””メロン!”
と競うように答える。
”そうだろう。そうやって匂いを嗅ぐんだよ”

これをトップノートという。 
アロマの香りだ。 
それを探ってみる、楽しんでみる。 


ボトルによって全然違う。 
飲みなれないうちは全部ウイスキーの匂いだ。 
一線を超えたヤツだけの領域だ。 


んー、そうかな、角度の問題だ。

 
やおら口に含んで、鼻から息を出す。 
今度はフルーツの香りなどしない。 
鼻の奥の方で、煙の匂いを感じる。 


これが二条大麦を乾燥させたときの
ピートの煙の匂いだ。それを感じることができる。 
これをフレーバーという。 


その煙くさいピート香から、 
鮭トバを思い出すこともあるし、 
正露丸を感じることもある。 
薬くさいとか。枯草とか。 


ラフロイグの強烈なピート香の正露丸臭さは、
学生時代をも連れてくる。 
そんな深い、いろいろな記憶を連想させる。 




当時、背伸びして、味も分からず飲んでいたラフロイグ。 
ちっとも美味いだなんて思っていなかった。 
だけど、俺の好きな酒はラフロイグといつも言っていた。 


そんなもんだ。 


こいつを口に含むと、 
まだまだ試されてる気持ちになる。 
だから、毎日飲みたいとは思わない。 
めったに触れることのないこのボトルは 
棚から私を見下ろしてくる。 

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今日もボトルを選ぶ。 
口に含んでいろいろな味と香りを探る。 
ひとつひとつ分解するように。 

モルトの香り、森の香り、ミントの香り、 
香木のような、なんだろう、これが樽の香りなのか。 
パイナップルのような。
フローラルな。 
はちみつ、ナッティ ウッディ、 クリーミー、
そしてオイリー。
このスパイシーさが少しオシャレかな??とか。 
でも複雑。多重奏すぎてよく分からんとか。 
いや~ほとんど分からんとか。 


酔いが回る。 
イメージしてみる。 
このボトルってどんな感じだろうか。 
煌びやか、落ち着いている、
どっしりしている、 
キラキラしている  
とか 青っぽい、 瓶の色じゃあねえぞ。イメージだ。 
夕焼けっぽい、 青白い月が見えている夜中っぽい。 
静かな夜の海みたい。 
銘柄によって違うはず。 
そして感じ方もみんな違うはず。 
同じ人っているのかな。 きっと話が弾むだろう。 


急にウイスキーが美味くなったのは 
10本程度買ったウイスキーのボトルが 
全て半分を切ってからだった。 

これがアクワイアードテイストの通過点。 
勝手に決めることのできない通過点が
どこかに確かに存在する。
だからウイスキーは大人の酒だといわれている。 


別に二十歳になったから大人というわけではない。 
し、別にこんなような楽しみ方を
強要したりなんてするつもりは一切ない。

ちょっとだけ話してみただけだ。 


完 

~あとがき~ 

★テイスティングノート★ 

JOHNNIE WALKER BLACK LABEL 
Aged 12 Years 
Alc.40% 
容量700ml 
トップノートは黒糖のような甘い香りと、 
ほのかにフルーツ。

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モルティ、ピーティー、そしてスパイシーな香り。
この香辛料のような香りが、 オシャレな雰囲気にさせてくれる。 
甘すぎず、苦すぎず、 口当たりはとても滑らか。 

フレーバーはほどよくスモーキーで、
アルコール辛さが少なく 2000円台とは思えない熟成感がある。
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Coments 

”ジョニーウォーカー、完璧な酒だ。 
このうまさが分からない奴は
酒自体飲まなくてもいいんじゃないか?
だって時間の無駄だから。”


これが私のテイスティングノート。